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月ヶ瀬伝説1

月ヶ瀬伝説について調べていましたら、
昭和9年発行の本の中に月が瀬伝説の物語がありました。

月ヶ瀬伝説1
「月が瀬        「飛騨の伝説 昭和9年刊 小島千代蔵著 P49 より」

今日も九郎兵衛は、不愉快な顔をして斧を肩に山を登って行った。後に残った妻も一人娘の信夫をつれて畑仕事に出かけた。九郎兵衛一家は小鳥河に沿う、余部の里に住む水呑み百姓であった。
来る日も来る日も暗い中から山仕事に、田畑の耕作に精出しても、暮らしは少しもよくならない。殊に九郎兵衛を暗くしたのは一人娘の信夫のことであった。彼女は生まれつき見るに堪えないような醜い女で、もう25を過ぎたというのに、誰一人婿になろうという者もない有様であった。夕食後、娘のねた後で父母はいろり端でひそひそ話をしている。
「困ったなあ、あの娘には」
「早く婿を探さんと私共の行く末も心細くてなりません」
「そうだ。俺も毎日毎日よい婿のあるようにと神仏に祈ったり、人に頼んだりしているが何のしるしもないよ」
「全く困りました」
こんなささやきをもれ聞いた娘はどんなであったろう。夜中泣いて泣いて泣きとおしたこともあった。
こうして自分の醜さを呪っている信夫は、一年一夜の楽しい村祭りの夜、あの男も女も老人も子供も踊りくるって夜を更かす場所へ顔を出さなかった。孟蘭盆になって盆踊りがあって毎夜若い男女が心ゆくまで踊るのにここへも信夫は顔を出さない。家にいても面白くない。踊りにも行く気のしない信夫は、家をさまよい出て小鳥川に架かっている名ばかりの橋の上まで来て、青淵に砕けて流れる満月の影を見下して、わが身の不幸をかこっていた。
その中に、急にのどが渇いてきたので橋詰から川へ降りて水を掬おうとすると、美しい満月が目の前の水にうつっている。信夫はその月を掬うと皎々たる月影が手に入った。
信夫は美しい月影と水を共に飲み干してしまった。このことがあってからこの村の川の面に満月の影が写らなくなったという。
ところが、不思議にも醜女信夫の腹はだんだんふくらんできた。九郎兵衛夫婦は娘が名も知れぬ人の子をはらんだのを恥しく思い、遂に我が家から追い出した。
信夫は山に隠れて安らかに男の子を産んだ。この子は成人して都に出て立派な工匠となったという。
月の子を産んだ村だから天生といい、川瀬の月を掬って飲んだ所を月ヶ瀬ということになった。
一説にこの立派な飛騨の工は、鞍作鳥(鳥仏師)だともいわれている。」


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