飛騨の匠の大工道具3_墨壷
スミツボ(墨壺)
大工が、これから割るべき部位や切り・削る箇所を罫描く道具。大工の技術の奥儀は墨を打つことにある。
「其が無ければ、誰か懸けむよ」と歌われ大工の本領発揮の道具。
万葉集に「かにかくに ものは思わじ ひだびとの 打つ墨縄の ただ一道に」という歌があります。
この歌は恋歌とも言われていて、人の思いというものが墨縄の打つ線に似ているということを
あらわしているというお話もあります。
墨縄というのは先に針が着いていて、はけでおさえながらずっと糸を持ってきて、ぴしっとやると、
まっすぐに線がつくものです。その線のように、男性から女性への思いが一筋になっているという
さまを読んだものだというお話です。
さて、仕事のときは、大工さんはすべて自分の墨壷をじぶんでこしらえます。自分の手に合ったように。
また、左利きの人と右利きの人では、持ち手の形が違いますから、使いやすいように自分で加工しました。
また、仕事用のものとは別に、棟上式などにおいて、神事に使うための装飾した墨壷もありました。
ここで、いくつかの墨壷をご紹介しましょう。
高原忠吉氏所蔵の墨壷 飛騨の特徴であるとされる一文字型
松井氏所蔵の墨壷 寺院建築にもみられる絵様を立体的に彫り出したもので糸巻きも車輪にするなど手の込んだもの。底面には般若の面と刻銘がある。
袈裟丸氏所蔵の墨壷 本墨壷は昭和31年に高山別院の用材を使用して作ったもの。
高原正夫氏所蔵の墨壷 ハンドルを使用せず、糸巻きを手の平で回転させて糸を巻き取ることが多かった
飛騨の屋台を作った初代 村山郡鳳氏の墨壷
棟上式用の装飾された墨壷
儀式用の墨壷(M家所蔵)
徳積善太