平成25年6月28日_大津絵について

rekisy

2013年06月28日 23:59

(平成25年6月28日放送分 第298回)みなさんこんにちは。飛騨の歴史再発見のコーナーです。
このコーナーは飛騨の生涯学習者第二号、わたくしながせきみあきがお届けしてまいります。

 相変わらず暑い日が続いていますね。熱中症になりやすかったり、食中毒の菌が繁殖したりする時期に
なりました。どうぞ、みなさんも熱中症、食中毒など健康に気をつけて頂ければと思います。
さて、本日の放送に入りましょう。本日の放送は、4週目ですから匠の話題についてお話ししたいと思います。
本日のお話は、大津絵についてお話ししたいと思います。実は、下二之町にある鳩峯車台の屋台の旧名が
「大津絵」という名前だったんです。今日はそのお話しをしたいと思います。

実は、4月の終わりに中日新聞の全国版1ページ目に、聖徳太子の様な仏画の様な絵が掲載されていました。
これは、四天童子という絵でしたが、見た事のある絵でした。真中に仏像の様な少年の絵。背後には太陽と
月を表わす丸く赤い塗りつぶした丸と、白く塗りつぶした白い丸が描かれていました。一瞬、これは以前どこか
の寺院だったか個人宅だったか忘れましたが、調査した時に拝見した事のあるものと同じではないかと思いました。
所蔵は大津市の歴史博物館。しかもその説明書きには「大津絵を発見」とあり、これが大津絵というものなんだと、
早速大津市歴史博物館の知り合いの先生にお電話をしました。

といいますのは、この絵によく似たものが飛騨にも存在すると云う事をお伝えしたかったばかりでなく、実は
飛騨に「大津絵」という名前の屋台がかつて存在していたために、大津絵という物がどのようなものなのか
知りたくなり、この絵を見せて頂きたいとともに、大津絵に「下法のはしご剃り」という絵が有るかどうか、
お尋ねしたかったんです。この「下法のはしご剃り」と聞いて、あ、あの屋台だとピンと来た人は、相当の屋台通
だと思います。実は、現在の古川祭の屋台殿町の「青龍台」の屋台で演じられているカラクリ。

これこそが、下法のはしご剃りなんです。おでこが非常に長い福禄寿という七福神の神様がおでこが長いので
手が届かない。そのため、二人の童子が梯子をかけてよじ登り、福禄寿様のおでこを剃刀でそってあげるという、
一見ユニークなカラクリがこのカラクリのストーリーです。

さて、大津絵についてですが、これは、一説によると徳川家康が教如上人に本願寺を建てるために京都の
六条に土地を与えました。その時に、京都の六条あたりに住んでいた職人達が自分の住んでいた場所を
追われることになって、大津と京都の境目の大谷や追分に移り住みました。

今までは、本願寺に納める物品を作っていたらしいのですが、場所が変わってそれまでの技術を生かして、
旅人相手におみやげ品を販売するようになった。それが、阿弥陀様や不動明王などの仏画だったということ
です。有名な松尾芭蕉などもこの大津絵の事を句にしていまして、「大津絵の筆のはじめは何仏」などという
句を残していたり、井原西鶴の「好色一代男」などにも大津絵の事が取上げられています。

それから、明治13年に鉄道が通るまで、この大津絵は京都に行く人達のお土産品として大変なブームとなって
いたそうです。200年以上も販売される中で、当初は手書きだったものが、大量販売を可能にするために、版画
になり、絵柄も仏画から民俗画、そして、道歌を題材としたものに変化していったようです。

例えば、最も一般的な「藤娘」には、「さかりぞと見る目も共に行水のしばしとまらぬ藤波の花」とか「鬼の念仏」
には、「慈悲もなく情けも無くて念仏をとなふる人のすがたとやせん」といった道歌をテーマにして、作られたよう
です。先ほど来お話しています「下法の梯子剃り」もこの道歌をテーマにしたものの一つとして喜ばれたようです。
おでこの禿げあがった福禄寿の頭を、大黒様がはしごに上って頭を剃るというテーマの物ですが、これは心学者
の教えをもとにしたもののようです。

つまり、「寿老人子鹿の年も暮れにけり」・「福も寿も登りつめたる頂ははだかになってすべりそうなり」・「高慢の
高い頭をはしごにて そりこぼつのは ふくのかみゆひ」などという道歌が元になっています。
また、頭を剃って居るのは、大黒様であることから、「財(大黒)を追い求める事ばかりでは寿(寿老人)を損ねる」
という意味にもとれますし、「欲は程々に押さえる (剃る)べし」ともとることができます。
ちょっとここでブレイクしましょう。曲の方は洋楽の懐かしい曲ビリートーマス「雨にぬれても」をお届けします。
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本日の放送は、大津絵についてお話ししております。

この「下法のはしご剃り」というカラクリ。現在は古川の青龍台で演じられていますが、そもそも高山にあったもの
なんです。下二之町には鳩峯車台と神馬台、船鉾台という3つの組が有りますが、神馬台は荒くれ者。
鳩峯車台は比較的おとなしい人が集まった屋台組として知られています。いつも鳩峯車台が神馬台組の組を
通過するときに、屋台をぶつけられたり、通せんぼしたりして鳩峯車台の人は困っていました。
このお話は、山本茂美さんの『高山祭』という本にも紹介されていますから有名ですよね。

あるとき、江戸時代の後期頃に、いつものように神馬台組の連中が、鳩峯車台に屋台をぶつけに行き、大破した。
ところが、このときに何が有ったか、知る由も有りませんが、神馬台組にあったカラクリをお詫びのしるしとして、
鳩峯車台に預けられた。それを永らく鳩峯台組では、屋台にはすでに自分たちの人形があったために、永らく
保管していたようですが、古川町二之町の杉崎屋彦右衛門が子之事を知り、僅か金三朱で譲って貰った。
それが、このときの「下法のはしご剃り」であったと云われています。
「おおついえ」などという狂歌が残されています。

さて、この時に何が有ったか。私は、この時に子供が引かれて亡くなっているのではと思っております。
一応、当時の記録を調べてみましたが、実は普通の年でしたら陣屋文書などに殺人が有ったなどの記録は
残っているんですが、天保4年から6年にかけては、世に言う天保の大飢饉の年で、あまりに沢山の数の
方が亡くなったために、この年代ばかりは全くそういう事が残っていませんでした。

おそらく、陣屋の方でも、そういった餓死者の一人として処理されてしまったようです。屋台という神事の時に、
人が亡くなったのであれば、これは大変なことですが、実は、人が亡くなったことを忌み嫌って、この頃に鳩峯車
は屋台そのものを作り替えています。車輪は4つとも取り外して、当時高山別院の西側にあった、寺内町に預け、
人形は御神体として残し、屋台本体は、金山町の下原へ引取って貰っています。後に本当かどうかわかりませんが、
明治8年の高山大火でこの屋台は人形もろともに消失してしまいます。
この時の火事は、民家1032軒、寺院14棟が消失すると云う高山の歴史上2番目に大きい大火でしたが、この時
に消失してしまったと考えられる屋台が、一之町の金鳳台、文政台、大八台、二之町の鳩峯車台、神馬台、船鉾台、
三之町の仙人台、行神台、二之新町の浦島台の9台にも及びました。

後のち人々は「鳩峯車台の車輪の怨念だ」などと揶揄する人も有ったと云う話が遺されています。
また面白い事に、金山の下原の屋台は、移されてから、引きだす度に下原町で大火が起きると言うので、地元の
人が忌み嫌って、祭礼の時に引き出さない習わしになっています。この屋台は現存しますので、若しご覧になりたい
方が有りましたら、四月の第一土日にこの下原八幡神社の祭礼が行われますから、一度ご覧になって下さい。

さて、話を戻しますが、大津市で拝見した大津絵の「下法のはしご剃り」という絵は、3枚保管されていました。
大変驚いたのは、古川のからくりの様に、はしごに上る人が、童子ではなくて、大黒様でした。先ほどお話ししました
ように「財(大黒)を追い求める事ばかりでは寿(寿老人)を損ねる」という意味で、元々は大黒様だったようです。

ここで大変驚いたことがいくつかあります。実は、先月お話した川原町にあった大国台組の大国様は、これは
かつて上二之町の鳳凰台組にあったものを当時の松樹台組に譲り、それが大国台と名前を変えました。
また、同じ二之町で上の下組が大国さま、下の下組が福禄寿様を持っていたと云う事は、何か関係が有るのでは
ないか。さらに、今でも、この二之町は上町と下町が一緒に秋葉講を持っている非常に珍しい組ですが、何かそれと
関係あるのではないだろうかという事を思いつきました。

しかも今回大津にお邪魔しまして、気が付いたことは、館内の展示を拝見していました時に、大津には、大津祭り
という祇園祭に似た山が13台、現在も伝わっているんですが、その屋台の名前を拝見していまして、大変驚きました。
実は、高山祭りに現存する屋台の旧名と同じ名前のものや、屋台のテーマが同じ屋台が8台も有りました。
このお話しについては、ちょっと長くなりますし、大事なお話しですので、来週の放送でお話ししたいと思います。

さて、本日も時間となりました。来週の放送は、「大津祭と高山祭り」の関係について、今日のお話しの続きについて、
調べてきたことをお話したいと思います。どうぞお楽しみになさってください。
本日はこの曲でお別れです。森高千里で「雨のち晴れ」をお届けします。それではまた来週お会いしましょう。

徳積善太

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